スプレイはターンの品質表示だ。一枚の写真から“クオリティ”を読み取ろう。
たとえばスピードに乗った思い切り深いターンのピークで、エッジが抜ける直前。たとえばパワースライドに近いドリフトターンをしている最中。ボードに無理な力がかかり、でかいスプレイが飛ぶ。このような瞬間を捉えた写真を雑誌でたまに見かけるのだが、確かに一見迫力を感じる。しかしよく見ると「あれっ、このあとコケてるでしょ」「失速しちゃってるよね」となるわけで、結局のところ、これはただの雪煙で、スプレイとは呼べない。
スプレイはわざわざ飛ばすものではない。ターンの結果として自然に発生するものなのだ。フォールラインへの推進力と弧の遠心力に加え、ライダーがボードを踏み込むプレッシャーによって大量の雪が空中にぶちまけられる。特に板を踏むという行為がターンの質を高め、その結果いいスプレイが生まれるということはいうまでもない。レールに乗ったフルカービングで、“飛ばそうとして無理矢理飛ばした雪煙”よりもでかいスプレイが飛ぶということは一体ボードにはどれだけのGが加わっているんだろう。
この写真のスプレイから、それがどんなターンだったのかを連想してみよう。適度に締まったパウダースノーは、乾きすぎない程度に湿気を含むかなり速い雪質に見える。斜度30°程度の間隔の広い林の中を、鈴木光はまずまずのスピードでクルージングしている。完全にリラックスして深いカーヴィングのピークを楽しみながらも、エッジはガッチリとレールに食い込み、ボードはフレックスの限界まで踏みつぶされているはずだ。目線からはスピードを維持したままのトゥサイドターンへの移行を連想することができる。ボードに余計なストレスを与えずに、その性能をきっちり引き出す。理にかなったターンからは、このような美しいスプレーが生まれるのだ。わかった?
Text 田口勝朗
今回は、ボードをかついで北インドへ5ヶ月間、記録無しの旅にふらりとでかけるような男、鈴木光の登場。世の中にはメディアに登場することに興味のないカッコいいスノーボーダーがたくさんいるのだ。田口勝朗のGreen Clothingにはそんなモジャモジャライダーが集まってくる。なぜだろう?
Rider Hikari Suzuki Photo Yoshiro Higai
(雑誌Snow Style掲載/2008年)