上手なスノーボーダーたちは初めて訪れた斜面でも瞬時に地形を読み、そこにある様々なアイテムを使いこなしながら楽しむことができます。
誰にも気付かれずにひっそりと隠れていたラインを発見したり、みんなが当然のようにルーティーンに組み込んでいるヒットをまるっきり無視したり、毎日そこで滑っているローカルに「えっ、そんなところで!」と言わせる地形の使い方をしたりします。バンク、 ノール、ヒップ、ログ、マッシュ、ハーフパイプ・・・・・斜面には遊べる立体が無数にころがっています。ほとんど起伏のない一見退屈なセクションにもピステンがかけ残した小さな段差やコブ、コース脇のブッシュの根本に残った新雪、微妙な片斜面等々たくさんの立体が隠されています。彼らは常に注意深く斜面を見まわし、ライディング中もきょろきょろと目線が定まりません。そこにあるすべての立体を探し当て、攻略しつくさないと気が済まないからです。 立体を見つけたら躊躇なく突っ込んでゆき、飛んだり回ったり当て込んだりするわけですが、人に迷惑さえかけなければ滑り方にルールがないことを知っている彼らは、とても自由な発想でそれを使いこなします。誰もがストレートジャンプで抜けてゆくヒットを飛ばずに当て込んでもいいし、ハーフパイプには左右のリップで交互にジャンプしなくてはいけないという決まりはありません。雑誌やビデオで目にする有名なスノーボーダーのライディングも斜面の上手な使い方の一例に過ぎないのです。こうして彼らは思い思いのスタイルで立体を攻略しながらラインを描いてゆきます。 そして一日中滑りたおした後の彼らの会話は「あのバックサイド540よかったぜ!」というより「いやー、あのライン最高だった~」ということになるのです。 その斜面をどうやって滑り降りるのかということ、つまり楽しもうとする姿勢や工夫の結果がラインであり、そこにこそスノーボーダーそれぞれのスタイルがあらわれます。プロスノーボーダーのようにぶっ飛ぶことはできなくても、彼らのように楽しむことに貪欲で、自分らしいラインを描くことができる人たちはみな上手なスノーボーダー、つまり楽しみ方の達人ということができるでしょう。
(雑誌フリーライド誌2003年掲載)